活動報告

駒ヶ根の明日を語る会

子ども食堂のこれから

第1回7月30日18時~20時

駒ケ根駅前アルパ3階多目的ホール

栗林知絵子・豊島WAKUWAKUネットワーク理事長(東京)

藤波匠・日本総合研究所上席主任研究員

多くの人が参加し、会場はいっぱいになった (7月30日、駒ヶ根市アルパ)

「駒ケ根の明日を語る会」(代表・伊藤祐三前共同通信論説委員)は、7月30日、駒ケ根市のアルパ3階多目的ホールで、第1回地域づくり連続講座を開きました。子ども食堂の草分けで全国にネットワークを持つ栗林知絵子・豊島WAKUWAKUネットワーク理事長(東京)と、地域づくりの専門家、藤波匠・日本総合研究所主任研究員の2人が登場。それぞれが取り組んできた活動や研究を基に、地域に新たなコミュニティーを築いていく重要さを訴えました。会場を埋めた人たちは、駒ケ根市の未来の手がかりを探ろうと、熱心に耳を傾けました。

 

 

こうした活動を通じて、地域の新たなつながりをつくっていくことが重要だと訴えました。
続いて藤波さんは、人口減少や東京圏への一極集中が進む実態を数字を交えて解説しました。人口は経済合理性による影響が強く、人手不足が進み東京圏の企業が若者を囲い込んでいるため、一極集中が一層進んでいるとの見方を示しました。そのうえで、地方の残る若者の雇用環境などを整えることが重要だとして、民間の力を活用して地域づくりに取り組むことが不可欠になってきたと話しました。
地域で子どもを育てる環境をつくろう

☆栗林知絵子・豊島WAKUWAKUネットワーク理事長(東京)

東京・豊島区から来ました。人口28万人もいるが、数年前、消滅可能性都市とされました。子どもが少なく高齢者が多いからだそうです。都会も地方も、再生する新たなつながりを作っていく必要があると思っており、(これからの話は)都会の話ですが、通じるところはあるでしょう。

 私は新潟県長岡市で21歳まで過ごしたました。両親は共働きだったので、帰りが遅ければ近所のおばさんの家でご飯を食べたりして自然豊かな場所で育ちました。今でも長岡は誇りです。

 

これまでの取り組みを紹介し、地域のつながりの重要さを訴える栗林さん

21歳になって東京へ来て、子育てが始まりました。課題は、私が育ったような自然が周りにないことでした。豊島区がプレーパークをつくり、遊びに行くようになりました。2003年で、子どもは小学生と幼稚園でした。その公園でいろんな子どもに出会いました。昨日からご飯を食べてないとか、引っ越してくる前はクルマの中で暮らしていたと話す子がいました。昨日もお母さんに殴られたという子もいたんです。私が知らない環境で暮らしている子どもがいることに気がつきました。

そういう子どもと会ううち、段々かわいくなります。でも、福祉の専門家ではないので、できることとしたら一緒にお握りを食べたりすることでした。08年に年越し派遣村のニュースを見て、貧困の問題の厳しさに驚きました。貧困について学ぶようになり、社会のみんなができることを持ち寄ればいいのではないかと思い、日々、子どもたちに関わってきました。

 

▽「おせっかい」が新たなつながりを生む

 プレーパークに来ている中学3年の男の子から「高校に行けない。先生から都立は無理だといわれた」と聞きました。私はおせっかいな行動に出たんです。その子を家に呼び、うちの子と一緒に勉強する環境をつくりました。その子はお金の心配をしない日はなく、少数点の足し算や分数の意味が分かりませんでした。小さい時からコンビニのご飯を一人で食べていることも分かりました。私が小さい時は、家族だんらんでご飯を食べるのが当たり前でした。しかし、今はコンビニがあり、シングルマザーで忙しければ、少しのお金を出せばご飯が食べられる世の中です。そうした中で、地域のコミュニティーがなくなってきたのではないかと思っています。

 プレーパークで出会った一人の子どもの学習支援をしたことから、一人でご飯を食べている子どもがいることが分かり、小学校の勉強でつまづき、取り残されている子どもがいることも分かりました。厚労省の子どもの貧困率から、困窮する子どもがたくさんいることも分かりました。街の子どもたちをみんなで育てる仕組みをつくろうとできたのが「豊島子どもWAKUWAKUネットワーク」です。ゆるやかにつながって、できることをしようという団体です。みんなでご飯を食べる子ども食堂をつくろう、小学生から来られる無料学習支援をしよう、街の人たちと地域の子どもたちが育つ環境をつくることにしました。

 最初に始めたのは要町の子ども食堂です。きっかけは、この家の山田さんがひとりぼっちになっていたことです。パン屋をしていた奥さんが亡くなり、息子夫婦が移住されました。山田さんは退職したころで、地域とはなかなかつながらないんです。誰からも電話がかかってこなくなり、ご飯を食べる気も新聞を見る気もなくなったというんです。私はおせっかいで、放っておけなくなった。みんなでにぎやかな何かを始めようと声をかけていたら、山田さん自身が、みんなでご飯を食べる子ども食堂をやりたいといいだした。みんなで応援しようと始まった。

 朝のテレビ番組で紹介され、見た主婦たちが動き出しました。うちの地域にも一人でご飯を食べている子がいるかもしれない、私たちも子ども食堂をつくろう。一人ではできないが、2人いれば、とりあえず作ろうと始まります。今では全国に3800カ所に増えた。長野県は、かなり早い時期にネットワークができて、一気に増えました。おせっかいされて、大事にされて育った人たちは、放っておけなくなります。これは持続可能な街づくりではないかと思っています。月2回くらいならいいねと、地域の人たちが集まってきて、新たなコミュニティーができてきました。

 私はもともと、自分の子どもをプレーパークで遊ばせていました。プレーパークは地域にとって大事な公園。だからこそ、いろんな子どもたちに会い、ニーズやウオンツが見えてきた。そこから、学習支援や子ども食堂をつくっていきました。東京のアパートは狭く生活困窮している家庭は、高校生になっても父や母と同じ部屋で寝ています。そうすると、親子けんかをすると子どもたちは外に出ます。繁華街があります。安心して過ごせる場所があったらいいねと、わくわくホームができました。いろんな人たちの声を聞いて、多くの市民がつながり、いろんな支援をつくってきました。

 小さいうちにおせっかいをいっぱいされると、自立につながります。みなさんのお宅のお子さんは、ご飯があってお風呂がある。しかし、今の虐待は0~3歳が一番多いんです。お母さんが孤立することによって、自分の子どもに向かってしまう。これを支援できるのは地域の人しかないと思っています。子ども食堂はいろんな人たちが子どもを大切にする。親だけが子育てしない。そんな意義があるのではと思っています。どこかで子どもとつながり、地域で育てていくことをしています。

 要町子ども食堂には、ご主人が亡くなって一人暮らしになった80代のおばあさんが毎回来ています。高齢者サービスにお招きしたら、元気だからいいといわれました。でも、子どものために子ども食堂にきてほしいというと、喜んで来られましたた。3年以上欠かさず来て、子どもたちにおせっかいをしている。でも、実は、おばあさんの見守りにもなっているんですね。

 

▽旅行や制服代の援助など多様な支援も

 

 全国に子ども食堂が広がっています。小児科のお医者さんがお寺でやっていて、300人ぐらい来て交流の場になっているものもあります。郷土料理や季節の料理を体験し、伝承していく場にもなります。煮物を食べたことがないお母さんもいます。関係ができていくなかで、そうしたお母さんも変わります。子どもだけではなく、お母さんも大切にすることによって、こどもはみんなで育てる。お母さんの価値観だけで育てない環境ができるのではないかと思っています。 ある子どもから旅行に行ったことがない。お母さんは仕事だし、カネがないしといいます。ではと、この近くの大鹿村に連れて行っています。乳幼児と一緒に自然体験の場も作っています。 

子ども食堂でつながった人たちが、あるおばあちゃんの入院や自宅での介護を支えたケースもあります。亡くなったおばあちゃんの所へ行き涙を流した子どももいたんです。子ども食堂は、みんなでご飯を食べるだけの取り組みです。しかし、地域の新たなつながりをつくっていくのだと実感しました。

 こうした取り組みを一つの団体がやっても意味がありません。豊島区に子どもたちはいっぱいいますし、みんなが意識を変えていくことが大事です。豊島区では、地域主体の学習支援が17カ所ほどでき、子ども食堂もたくさんできました。マップを作り行政が発信しています。学習支援を始めた大学生もいます。子どもに参考書を紹介したら、金がないから買えないといわれたんです。心を揺さぶられ、自分たちで子ども食堂を始めました。
 行政に、あれしてとは言いません。地域だからできることです。公平性に欠けており、税金でやることではないと思っています。行政はネットワークや事務局をつくり、地域の人たちと交流します。すると、私たちにできることはないかと変わってきます。行政は孤立する親の子どもたちを地域につなぐ職員や困窮する子どもたちをつなぐワーカーを配置した。

数字やグラフを示し、人口減少や東京一極集中を解説する藤波さん

地域にできること、行政にできることを持ち寄る。子どもは一番弱い存在です。そのためにできたセーフティーネットは、みんなのためになります。誰一人とりこぼさない地域にしようと、官民連携会議も始まりました。こうしたことを豊島区でやっています。ぜひ、この街でも新たなつながりをつくってほしいと思います。
 おせっかいだから、子どもたちのために何だってやります。高校へ行く時に制服代、教科書代をそろえられない親がいました。地域の子なのだから地域でやろうと、企業からお金を集めて、4万円を振り込みではなく、お祝い袋に入れ手渡しで贈っています。さらに、その時に弁護士が来て、困りごとを聞きます。ロータリークラブなどが電子辞書も贈ってくれています。夏休みなどの昼食が大変という話を聞き、フードロスの食材を届けたり、取りに来てもらったりして新たなコミュニティーをつくっています。

 

 

民間の力なしに地域の持続は困難
☆藤波匠・日本総合研究所上席主任研究員

 

広い範囲で支え手という観点から話をしたいと思います。まず、人口減少の問題です。駒ケ根市の人口推移の見通しをみると、将来的にゆっくりと減っていくことが予測されています。ただ、近隣の市町村と比べると急激に落ちてはいません。飯田市は急速に減少が予測され、岡谷市は2050年ごろには駒ケ根市と同じくらいになってしまいます。これは、人口流出がキーワードになっています。推計した時に駒ケ根市は比較的、人口が転入超過の時期でしたが、今は人口流出が増えており、人口推計が下振れする可能性があるのではとみています。 いずれにせよ地方の多くの市町村が人口減少に見舞われることは間違いありません。

 国が注目しているのは東京一極集中の問題です。3大都市圏の転入超過数をみると、東京圏は1962年に39万人の転入超過でした。金の卵、団塊世代が大挙して入ってきたためです。2018年は13万人ほどでピークの3分の1ですが、ほかの地域はほとんど転出超過ですので、東京一極集中といわれても仕方がありません。しかも、大阪圏と名古屋圏は、ほとんど人口が入っていません。政府は地方創生戦略を2015年につくり、最大の目標が東京圏の転入超過を2020年までにゼロにすることです。今回の見直しで無理としましたが、旗はおろさないとしています。

 なぜ難しいのでしょうか。人口は経済合理性が極めて強いのです。そこで、どれだけの人を養えるかということで決まってしまう現状があります。一人当たりの所得と転入超過の相関をみると、東京は所得が高く転入超過も多い、右肩上がりの関係になっています。例外は沖縄で、所得は低いとされるが、入ってくる人が多いのです。自然や人とのつながりを求める人が多いので経済合理性から離れる傾向にあります。ただ、経済的に豊かな地域に人は流れやすいのです。

 東京の有効求人倍率と全国平均との差をみると、東京は全国平均から跳ね上がっており、人が取れない状況にあります。転入超過を1歳刻みでみると、20歳前後が跳ね上がっている。この数年間で東京の人手不足が厳しくなり、企業が若い人をどんどん採用していることが分かります。企業規模別に人手不足の状況をみると、2009年以降、深刻化していて、中堅、中小が一層深刻になっています。こうしたことから、若い人はどんどん東京を目指す状況にあります。

 駒ケ根市はどうでしょう。もっと人口流出が激しい市町村はあり、そんなに深刻な状況にはありません。どの地域にどれだけ人が出ているかをみると、東京圏や愛知県に流出しています。長野県のほかの市町村や、東京や愛知以外の地域からの流入はあるが、全体では流出超過となっています。ただ、ほかの厳しい状況の市町村からすれば健闘しているといえます。

 

▽移住促進より地域の若者へ支援を

 

各地が移住促進政策をしていて、長野県は移住者が全国1位といわれています。2015年ごろから移住者が増え、今は年間1200~1300人入ってきています。ただ、転入超過の改善はあまり見られていません。転出超過は必ずしも減っていないのです。移住促進は、若い人がいなくなった地域には有効な取り組みだと思います。しかし、結局、東京が一定程度の人数を外から引っ張ってしまいます。ということは、長野県に入ってくる人はほかの地域から来た人と同じです。東京が引っ張ってしまうと、それ以上に多く出している地域があるということです。長野県に入ってきた分は、それ以上に出ている地域からということです。移住促進には、そうした面があります。

 今定着している人たちの活動をもっと円滑に進め、暮らしやすい状況をつくることが何よりも重要です。平均してみると地方から東京へ移る人は、人口比でみると1割。ある世代の追跡調査をすると、30歳ぐらいで移動は固まってしまうので、だいたい1割ぐらいが東京へ転出超過ということになります。地方で生まれた人の9割は、その県で暮らしているという計算です。こういった若者の所得環境や生活環境を改善することが大事です。まず、ここからスタートすべきだ。

 人口減少をある程度受け入れることも必要です。限られた人材の有効活用という意味で、技術革新や新しいテクノロジーを取り入れることが重要になります。コミュニティー維持に行政がこれまで以上にお金を出して支えるべきだという考えもありますが、民間の力を入れないと地域のお持続性はないと考えます。効率性や広域性などを考えると、民間が地域に入っていかないと難しいと思います。

 

▽担い手を束ねる中間支援組織がの活躍

 

 地域に貢献する企業を立ち上げたい人を、住民や企業、金融機関、行政が支援し、全体を中間支援組織が束ねる事例が各地で始まっています。例えば、島根県の「おっちラボ」を訪ねると、金融機関の支店長クラスが会議をしていました。どうやって地域へ融資をしていくかを話し合い、それを事務局長が束ねていたんですね。

 なぜ、こうした活動ができるようになってきたのか。山の中でも結構いい道路があり、物流ネットワークも良くなりました。さらに高速インターネットも整ってきています。こうしたネットワークで民間が効率よく地域に入れるようになりました。例えば、一人暮らしのお年寄りを見守るのに、ロボットなどを活用できるし、買い物などの自動配送もできるようになりつつあります。IT技術は人手の足りない地方こそ、生かすべきです。実際に、独居高齢者向けアプリを作り見守り活動をしているケースもあります。

 公共交通についてみると、私は長野県の交通不便地帯の人口は17万人と推計しています。駒ケ根市は線路の東側が不便地帯のようです。高齢社会では大きな問題です。ただ、民間の力で改善される例が出ています。秋田県や神奈川県でスーパーが無料バスを走らせ、病院などを回ってます。住民も自分たちで走らせ始めた例もあります。

 日本全体の人口が減っていく中で、コミュニティーを誰が支えていくのか。民間の力が重要です。スピード感やテクノロジーの導入など、いろんなことを考えることが地域の持続性につながっていきます。もちろん行政には民間の活動を支えたり、それ以外の地域との橋渡しをしたりなどの役割があります。

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